毎日の暮らしを支える冷蔵庫。食品をもっとおいしく保存できないか。もっと使いやすくできないか。お客さまの視点に立って改良を重ね、日立は新しい「便利」を実現してきました。「鮮度を守る」 。今回はこのテーマで開発者に聞きました。
小川 真申(おがわ まさのぶ)
ホームソリューション事業部國分 真子(こくぶ まこ)
ホームソリューション事業部服部 圭介(はっとり けいすけ)
ホームソリューション事業部「デリシャス冷凍」ですね。簡単に言うと、自動ですばやくおいしくホームフリージングできる機能です。冷凍室1段目のアルミトレイが食品の熱を奪って、すばやく凍らせます。手で持てるくらいの温かいごはん(約50℃以下)を入れたときなども、専用の温度センサーがデリシャス冷凍スペースの温度を検知し、自動で運転を切り替えるから、置くだけでおいしく冷凍できるんです。この「デリシャス冷凍」の開発当時、私は主に温度センサーを活用した制御・設計を担当していました。
冷凍室には大きく2つの課題がありました。ひとつは、お客さまから寄せられていた「冷凍すると味が落ちる」という悩み。たとえば肉を冷凍すると、解凍時にドリップが出て旨み成分が流出してしまう。そのため、細胞内の水分が凍る-1〜-5℃の温度帯をすばやく通過させて、氷結晶の成長を抑える必要がありました。これを解決したのが食品の熱をすばやく奪えるアルミトレイなんです。
食品の熱をすばやく奪う、
熱伝導性に優れたアルミトレイ。
もうひとつの課題は、これまでお客さまが手動でボタンを押す必要があった「急冷凍機能」の改良。温度センサーを使って自動化することで、お客さまの手間を減らしたいと思いました。温度センサーの位置や制御を決めるためには、外気温や食品を置く場所、食品の温度などさまざまな検証が必要で、何度も何度も繰り返しました。
はい。実際、制御関係の開発は、見えない部分の機能なので。試行錯誤を経て生まれたアルミトレイは、食品を重ねて入れてしまうと効果的ではないため、冷凍室1段目の広いスペースを活用しました。これにより、おいしく保存できるだけでなく、置きやすく、簡単に冷やせる「デリシャス冷凍」ができました。いろいろ苦労はありましたが、結果的にお客さまに使いやすいと言っていただけることがいちばんうれしいですね。
そうですね、チルドルームは高い保鮮性能をもっていますが、収納スペースが限られるという課題がありました。冷蔵室全段をチルドルームにしたら、たくさん収納できて、どこに置いても鮮度が守れて、お客さまは使いやすいに違いない!そんな思いから開発に至りました。この「まるごとチルド」は、冷蔵室全段、約2℃*1の低温と高湿な冷気で鮮度を長持ちできるのが特長です。
※ドアポケットはまるごとチルドに含まれません。
従来の冷蔵庫では、ひとつの冷却器で冷蔵庫のすべての部屋を冷やしていました。そのため、最も温度が低い冷凍室に合わせて冷却器の温度を設定していたので、冷気が除湿されてしまっていたんです。「まるごとチルド」では、冷蔵室専用の冷却器を搭載することで、冷蔵室だけを冷やせばよくなりました。だから、より高い温度帯の冷却器で、水分をたっぷり含んだ冷気を送り込んで湿度低下を抑えられます。また、大風量ファンを使って冷気を行き渡らせることで全段を約2℃*1に保つことができたんです。
冷蔵室専用の冷却器を設けることで
「まるごとチルド」を実現。
はい。どこに置いても約2℃*1になるよう、食品を模擬したもので、ここは何℃、ここは何℃と測定して検証する作業を繰り返しました。従来の冷蔵庫は比較的、低湿の状態が当たり前でしたが、「まるごとチルド」は高湿にしなければなりません。日立として初めての挑戦ということもあり、想定外の問題が発生することもありました。そんなときは、私たち設計部だけでなく工場全体の関係者も巻き込んで、意見やアドバイスをもらいながら、課題をひとつひとつ解決していきました。
さまざまな技術が集まっている「まるごとチルド」ですが、何よりもお客さまがらくに使えることが大切です。これからも日立の保鮮技術をレベルアップしていければと思っています。
*1 周囲温度約32℃、「まるごとチルド」設定で庫内が安定したときの目安です。
お客さまには、眠らせるように保存する「新鮮スリープ野菜室」と説明しています。実は、野菜は収穫後も呼吸していて、エチレンガスというホルモンを放出しています。このガスは野菜の熟成を促す一方、老化も進めてしまいます。そこで必要なのが、呼吸活動を抑えて保存することでした。野菜も人間と同じように、眠ることが元気を保つ秘密なんです。
当時の社会的背景として、野菜の保存性能を重視する声がありました。野菜の摂取量不足がある一方、鮮度が落ちて廃棄量が多いという事実もあり。日立には減圧することで酸素量を減らして鮮度を守る技術はありましたが、空気中に約20%もある酸素量をコントロールのはむずかしく、そこで着目したのが業務用で用いられていた「炭酸ガス」でした。炭酸ガスの濃度を高めると野菜の呼吸を抑えられるんです。
当時、野菜の下段ケースに炭酸ガスを発生させるために光触媒を使った野菜室はすでにあったのですが、北海道大学が、光を必要とせず、0℃でエチレンガスを炭酸ガスに分解できるプラチナ触媒を開発したんです。「これは冷蔵庫に最適だ!」とひらめいて、すぐに連絡をとりました。
野菜の鮮度を長持ちさせる重要な要素、プラチナ触媒。
それが違うんです。炭酸ガスを閉じ込めるために密閉度が高い構造にすると、野菜の水分がたまって水浸しに…。結局、お客さまに水を捨てもらう手間を考えて断念せざるを得ませんでした。そして悩んだ末に見つけたのが、除湿機などで使われる水を吸放出する素材のフィルターでした。
このフィルターを使って、水分が多い野菜をいっぱい入れても結露しにくくなるまで検証を重ねました。そこでできたのが「うるおいユニット」。野菜から出た水分をパネルで結露させ、蒸発させることで、野菜のみずみずしさが約10日間長持ちするんです。「新鮮スリープ野菜室」で保存した野菜と、そうではない野菜室のものをご覧いただくと、実力の差を感じていただけると思います!
※当社調べ。食品の種類・状態・量によって
効果が異なります。*2
実際に比べてみると、その実力は一目瞭然。
*2 2023年度商品R-GXCC67T新鮮スリープ野菜室(下段スペース)に収納可能な量の野菜を室温約20℃でラップなし、ドア開閉なしで10日間保存。2022年度商品R-H54Sの野菜室(新鮮スリープ野菜室未搭載)にも容積比で同程度の野菜を収納しています。
設計担当として携わって以来、冷蔵庫ひと筋20年になります。これまで開発に関わってきて思うのは、冷蔵庫にとって食品の鮮度を守ることは基本の機能であり、鮮度保持技術は日立の冷蔵庫の強みということ。この「鮮度を守る」がベースにあり、さらに近年お客さまのニーズが高まっているのは、生活スタイルの多様化に合った「大容量化」、家事の手間や時間を軽減する「使いやすさ」ですね。
「大容量化」も「使いやすさ」も、簡単に言えばお客さまが「らく」ということにつながるんです。大容量なら、あれこれ考えずたくさん入れられて、らく。冷めきる前に冷凍できて、らく。野菜室に入れておくだけで葉物野菜の鮮度を守れて、らく。冷蔵室全段がまるごとチルドルームで、らく。これからもお客さま一人ひとりにとっての「らく」がいろいろ詰め込まれた冷蔵庫をつくり出していきたいですね。