エアコンの基本的な使命は、省エネと快適性の追求です。いかに電気を使わずに、最高の快適性を提供できるか。[くらしカメラ]は、この永遠のテーマに対する、日立グループのひとつの答えです。その発想の原点には、『省エネ』に関するふたつの考え方があります。ひとつはコンプレッサーや熱交換器など、エアコンに搭載された『ハードウェアの省電力化』です。これはクルマであれば燃費を抑えること。もうひとつは、使わないときは、こまめに電気を消す、といった『無駄な運転をさせない』という考え方です。従来のエアコンは、主に前者の省エネ対策に取り組んできましたが、近年は、節電やエコロジーの観点から、前者の省エネ対策はもちろん後者の省エネ対策も重視されています。
それまで主流だったエアコンのセンサー技術は、主に後者のための技術でした。人・日射しなどを検知し、温度や気流をコントロールするセンサー技術により、エアコンは飛躍的に進化しました。しかし、この赤外線センサー技術には課題もありました。人がいることは分かっても、一人ひとりが、どこで、何をしているのか、といった状況まで把握することが困難なことです。また、お客様からも“目に見えないセンサー技術は分かりにくい”という声が数多く寄せられていました。“この課題を解決するのはセンサーの進化ではない。センサーを超える、まったく新しい技術だ”と私たちは考えていました。
2011年、日立グループの技術力を結集した、まったく新しい技術への挑戦が始まりました。私がイメージしていたのは“人の五感のような機能をエアコンに与えられないだろうか”ということ。室内の状況を正確に把握する視覚、聴覚、触覚のような検知機能です。そのイメージがディスカッションの中で “カメラを使って、部屋をズバリ見てはどうか”というアイディアに結び付きました。しかし、その実現には、いくつかの解決すべき課題がありました。もっともむずかしかったのは、カメラがとらえている映像をエアコンの頭脳であるCPUに正しく“把握させる”ことでした。初代[くらしカメラ]は、まず人(在室者)の数や動きを正確に見ることからスタートしました。
カメラが撮影しているものをエアコンが人であると把握するためには、エアコンの頭脳であるCPUにさまざまな人の状態を覚えさせる必要がありました。そのために私たちは、実験室や自宅のエアコンにカメラを据え付け、エアコンから見えるリビングのあらゆる状況を長期間にわたりに撮影しました。工場、研究所の仲間をあげての人海戦術です。リビングを撮影した膨大な映像が集まりました。立っている、座っている、歩いている、読書をしている、食事をしている…。リビングにおける人の数・動作など、あらゆる状態をすり合わせてパターン化し、“このパターンは、このような状態(活動量)にある人だ”という膨大かつ高精度なデータをCPUにインプットしていったのです。さらに、撮影には、もうひとつの目的がありました。それはキッチンの場所を認識させることでした。“夏場は特に暑くなるキッチンで炊事を行う方を快適にしたい”、そんな思いから、人の動きを検証した結果、反復上下運動が多い、というキッチン特有の動きを発見。この動きのある場所をキッチンとして認識させることができたのです。
もうひとつの課題は、エアコンの頭脳部である『電装部品』の搭載位置でした。エアコンは熱交換器の幅を広く取ればとるほど熱効率がアップし、省エネ化につながります。そのため従来は、電装部品が入った箱をエアコンの側面に縦置きしていました。しかし、カメラ機能を搭載すると『電装部品』も増えるため、従来の搭載位置では、熱交換器の幅を広く取れません。そこで私たちは、エアコンの構造を一から見直し、電装部品の箱を熱交換器の前に配置し熱交換器を幅いっぱいに伸ばすことで、さらなる省エネ化とカメラ機能搭載の両得を実現しました。省エネ性能をアップさせると同時に、さらなる快適性と節電を約束する白くまくん。そこには、日立の省エネに対するこだわりと飽くなき快適性の追求が込められています。私たちはこれからも、お客様も私たちもワクワクする、そんなエアコンを作りつづけます。
1995年、(株)日立製作所 冷熱事業部 空調システム設計部入社以来、一貫して家庭用エアコンの量産設計に携わる。
2016年現在、日立ジョンソンコントロールズ空調(株) 家庭用空調事業部 栃木空調本部 空調システム設計部で家庭用エアコンの量産設計に従事。